第5章 / 第3節 モデルカー・キットの組立方法 Assembling

第1章「基礎知識」第3節「商品形態」で説明したように、モデルカーは「キット」という未組立の状態で販売されることがあります。それを自ら組み立て、モデルカーとして完成させる人々を、「モデラー」 (ビルダー)と称します。

 

私自身にはその才能が致命的に欠落しており、キットで購入しても、製作はキット組立のプロフェッショナルである 「プロモデラー」 の方々に依頼しています。そういう方々のおかげで、私は収集専門の 「コレクター」 に徹することができている訳です。モデラーは私の憧れの存在です。

 

そこで、日本を代表する名古屋の老舗モデルカーショップ「ラクーン」さん にご協力を仰ぎ、ウェブサイトでご紹介されている記事を特別に提供していただきました。製作サンプルは、私の大好きな ケーニッヒ・フェラーリ です。ケーニッヒはドイツのチューニング・メーカーです。

 

構成の関係で、本節では6項に分け転載しました。サブメニューで順にご覧ください。キットの組み立てに挑戦されたい方は、同じ記事がPDF文書で掲載されているラクーンさんのウェブサイトから、ダウンロードされることをお勧めします。


How to Build 1/43 Kit

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Artwork   Koenigsegg CC Concept 2000

作品紹介 ケーニグセグ CC コンセプト 2000年

1/43 Koenigsegg CC Concept 2000 ケーニグセグ CC コンセプト 2000年

Description
Koenigsegg was founded in Ängelholm of Swedish southernmost Skåne County in 1994 by 22 years old Christian von Koenigsegg who had become a millionaire importing US frozen chickens into Estonia and decided to indulge a childhood fantasy for supercars. He contacted a Swedish car designer Sven-Harry Åkesson in 1995 and saw his road racer called Sethera Falcon of what development had stagnated. Christian funded to let him complete Falcon featuring the unique dihedral actuation doors (raptor doors) with Audi 4.2 litre V8 engine. The completed car and design was taken over by Koenigsegg and renamed CC as the first prototype of the brand in 1996. With minor modifications by Koenigsegg design consultant David Crafoord, CC Concept was introduced at 2000 Paris Motor Show. Its successor CC8S was the first production model with 655ps Ford 4.7 litre V8 engine made of cast aluminium that was premiered at 2002 Geneva Motor Show.

作品解説
ケーニグセグは、1994年に当時22歳のクリスチャン・フォン・ケーニグセグによって、スウェーデンの最南端スコーネ県のエンゲルホルムに設立されました。彼はエストニアにアメリカから冷凍チキンを輸入して短期間で財を成し、その資金で幼い頃からの夢・スーパーカー製作に取組んだのです。1995年にスウェーデン人のカーデザイナー兼エンジニアのスヴェンハリー・オーケソンを訪ね、開発休止中だったセテーラ・ファルコンを自分のために完成させるよう出資します。カーボン製セミ・モノコック・シャーシにアウディ製4.2リッターV8エンジンをミッド搭載し、外側にせり出し前方回転するラプタードアの個性的なファルコンは、ケーニグセグ家が買い取って1996年に自社ブランド初の試作車CCとして仕立てます。そして走行・風洞試験の後、デザイン顧問のダヴィッド・クラフォードが独立6灯ヘッド&テールライトなど細部の意匠に手を入れたCCコンセプトを2000年パリ・モーターショーに出展します。その進化型CC8Sは、655psを発揮するアルミ鋳造のフォード製4.7リッターV8エンジンを搭載し、初の市販車として2002年ジュネーヴ・モーターショーで発表されました。モデルカーのCCは、稀少車を積極的にキットでリリースするヨウ・モデリーニ(日本)のハンドビルト完成品です。






〔学院長の補足メモ〕

2010年代以降、1/43レジン製精密モデルカーでもキットより完成品の方が主流となりました。業界屈指の作品数をリリースしてきた2大老舗キットメーカー、プロバンス・ムラージュとスターターの廃業が大きな要因です。大好きだったヘコも廃業しました。その代わり、多くの原型が完成品メーカーのスパーク(ミニマックス社)に引き継がれ、一時代を席巻したかつてのキット作品達は、同程度の価格で完成品として蘇り、再び表舞台に登場して現在でも市場を賑わせています。

 

数えていませんが、私はたぶん千数百台の未組立キットを保有しています。これまでもプロモデラーに依頼して複数のキットを組立ててもらいました。今回の補足メモでは、自分が直接腕を振るう “組立方法”(本編記事)ではなく、私のような自分で組立てられないコレクターがプロモデラーにお願いする際の “依頼方法” を、これまでの私の実践経験を踏まえてご紹介します。まず最初に認識しておくべき重要事項が3つあります。

 

1.キットはそれ自体が作品であり、2度と入手できない稀少品である。

2.プロモデラーだからといって、キットの実車に精通している訳ではない。

3.組立のチャンスは一度きり、キット組立依頼に失敗は許されない。

 

同じキットを複数台保有している場合は別ですが、ほとんどの場合 “お試し” や “やり直し” は利かないと覚悟してください。上述の1~3は全て連携しており、手元に1台しかないキットの組立ては決して失敗できない一発勝負のプロジェクトなのです。私の前職では「一発成功精神」という最重要なモットーがありました。まさにそれ。一発で成功するためには、しっかり事前準備をして必然的に成功する道筋を作らねばならないという教えです。ちなみに英語では、Get it right first time と言います。

 

今でも悔やまれる失敗例があります。第4章・第5節「歴史の私有化」で紹介したアストン・マーティン・ヴァンテージ(93年式)です。実車とほぼリアルタイムで収集していた頃、英・ウェスタン・モデルズ製と仏・プロバンス・ムラージュ製の2作品がありました。前者はキットも完成品もあり、同社特有のやや大作りでオーバースケール気味の作品です。後者はレジン製キットのみ発売されており、1台手に入れたキットを腕利きモデラ―に何の指示も与えることなく組立ててもらいました。

 

同車は当時アストン・マーティンのフラッグシップでありながら人気はイマイチで、実車写真が少なかった上に、キットを信頼していたため、組立依頼する前に十分な検証は行っていませんでした。ハンドビルト完成品として手元に届いて暫くすると、リアのライト周りの造形に違和感を覚えます。焦って数少ない実車写真と比較検証してみると、キット自体の造形が実車とはやや異なっていたのです。でも後の祭り。これが組立て前であれば、キット造形の一部手直しが可能だったのです。

 

それ以来、プロバンス・ムラージュの93年式ヴァンテージ未組立キットを探し続けるものの、現在でも2台目は見つかっていません。元が不人気車種だったから、数が多く出ていなかったのでしょう。作品のコレクションとしては、その後何年も経って英・サクソン・モデルズから完璧な造形のキットと完成品がリリースされたため、ほっと胸を撫で下ろしました。しかし、メーカーが違うとモデルカーとしては別作品です。今でもプロバンス・ムラージュの完璧版ヴァンテージ・プロジェクトは活きています。もし同キットをタンスの肥やしされている方がいらっしゃいましたら、是非とも私にお譲りください。命を吹き込みます。

 

さて、本題に戻って、失敗しないキットの組立依頼方法です。私も失敗を重ね、賢くなっていきました。実施すべき要領は大きく3つあります。

 

1.実車情報を徹底的にリサーチすること

あらゆる角度からの写真を入手し、実車があれば自分で気になった部分を撮影するのがベスト

2.依頼内容に最適なモデラーを選定すること

モデラ―にも得意不得意があるので、実車の種類や依頼内容に応じて発注するモデラ―を選択

3.図解入りで詳細な作業指示書を作成すること

写真だけでは相手の判断力に丸投げしたことになるため、特筆すべき作業は必ず文言にて指示

 

他人に何かを指示する場合、これは何事でも同じでしょうが、前提となる相手保有の知識や認識と、相手に行動して欲しい自分保有の依頼内容を、如何に同じレベル(思考や言語)で合致させるかが成功の鍵となります。従って、「人はそれぞれバラバラだ♬(不協和音 / 欅坂46)」という真理を肝に銘じ、自分が当たり前としている知識や認識を相手は全く保有していないと考えるところから出発します。

 

まず、そのモデラ―は実車を全く知らない人だと仮定します。すると、キットに付随している手のひらサイズのちゃっちいインストラクションでは不十分で、塗装して欲しい色合いや、凹凸があって影になる部分、別の色に塗り分ける部分、ボディシェルに後付けする突起部分(ウィングやサイドミラー)などが、手に取るように解る写真を奇麗なカラー出力で提供しなくてはなりません。私はこの作業のために、一般的な実車ファン以上に実車に関する資料(国内外の書籍や専門誌)を収集することになりました。

 

次に、写真を添付するだけでは不十分です。資料からモデラ―が読み取る内容を上手に誘導しなくてはなりません。そのためには、重要性を指し示すことです。念を押す、ダメ押しをする、とでも言いましょうか。実車写真だけでなく、該当する箇所に「何をどうする」と具体的な文言を記すのです。特に改造が必要な場合は、キットの状態と照らし合わせながら、完成形の姿を図及び文言で解説します。私が実際に作成した指示書(インストラクション)は、A4用紙で数ページに渡るのが常でした。全て「一発成功精神」の実践に他なりません。

2020年3月某日