第6章の前半では、私個人の嗜好やカー・デザイナーに焦点を当て、特筆すべきモデルカー作品群を紹介しました。スケールこそ掌サイズの1/43に縮小されていますが、私達コレクターがモデルカーから感じ取る情報は、実車の造形や性能情報だけでなく、その車種に注がれた関係者の才能や情熱であり、実車ブランドの歴史や物語でもあるのです。
モデルカー・メーカーについては第5章・第1節「モデルカー・メーカー」で概要を紹介しました。本節では、「モデルカー学」の見地に立って、モデルカー収集の下地となる主要な実車ブランドの情報を提供いたします。なお、個別ブランドの詳しい情報は巷に溢れていますので、皆さんご自身でお調べになることをお勧めします。
6 作品紹介 ≫ 6-1 逸品解説 6-2 デザイナー 6-3 実車ブランド 6-4 未組立キット 6-5 製品化要望
Artwork Lamborghini Aventador Prindiville 2012
作品紹介 ランボルギーニ・アヴェンタドール・プリンディヴィル 2012年
Description
Aventador, named after a fighting bull started from Miura, was launched in 2011 as 2nd flagship of Lamborghini under the Volkswagen Group to replace the predecessor Murciélago. Its 6.5 litre V12
engine output 700ps and its styling inspired by US Military's stealth fighters was drawn by Italian Filippo Perini who was the former Alfa Romeo designer and worked for Audi and Lamborghini under
the direction of Luc Donkerwolke and Walter de' Silva. The model car is tuned version of Prindiville in the UK. There are many tuners for Aventador such as
DMC, Mansory, Novitec Rosso, Oakley Design
and Renm Performance, all available in model cars at the World Model Car Museum.
作品解説
ミウラに始まるランボルギーニ伝統の闘牛名が付けられたアヴェンタドールは、フォルクスワーゲン・グループ傘下でムルシエラゴに続く2番目の旗艦モデルとして、2011年に発表されました。最大出力700psの6.5リッターV12エンジンがミッドに搭載され、米軍のステルス戦闘機をモチーフにしたスタイリングは、イタリア人のフィリッポ・ペリーニによって生み出されました。彼はアルファ・ロメオで活躍した後、アウディに移籍してグループ内のランボルギーニでルーク・ドンカーヴォルケやワルター・デ・シルヴァらを支えてきたデザイナーです。モデルカーはストックのアヴェンタドールではなく、イギリスのプリンディヴィルの手になるチューニング・カーです。他にもチューナーはDMC、マンソリー、ノビテック・ロッソ、オークリー・デザイン、レン・パフォーマンスなど数多いですが、いずれも高品質なレジンモデルで世界モデルカー博物館に展示してあります。
その名が象徴する技術開発哲学
19世紀が蒸気自動車の時代だったのに対し、20世紀はガソリン車の時代です。そうは言っても、黎明期の最高速度は蒸気自動車に劣っていました。19世紀末に勃興したガソリン車ブランドは、当時は新産業だった自動車技術の確立に挑んだベンチャー企業でした。21世紀を迎えると、乗用車でもフォーミュラ・カーでも、電気自動車が台頭してきます。
企業は、創業者の志や創設の経緯などに、社風や製品の個性が大きく影響されるものです。そこで、ブランドの国と創設年代、成り立ちがレース・スポーツ志向か乗用車志向かでザックリ分類してみました。時代の転換期は1918年と45年の2度の世界大戦終結時です。戦後復興期、経済成長の波に乗って個性的なブランドが数多く誕生したことが分かります。
Race or Sports Car / スポーツ志向車 | Public Passenger Car / 大衆乗用車 | |||||||
DE 独 | FR 仏 | GB 英 | IT 伊 | DE 独 | FR 仏 | GB 英 | IT 伊 | |
Before 1909 |
Bugatti |
Daimler-Benz, Opel |
Panhard, Peugeot, Renault | Vauxhall, Ford, Rover, Austin, Talbot, Rolls-Royce | FIAT, Lancia | |||
1910's | Aston Martin, Bentley | Alfa Romeo, Maserati | Audi, BMW | Citroën | Morgan, Morris | |||
1920's | Mercedes | MG | Triumph, Jaguar | |||||
1930's | DB | Auto Union, Volkswagen | Simca | Jensen | ||||
1940's |
Cooper, TVR | Ferrari, OSCA, Abarth | Bristol | |||||
1950's | Porsche | Alpine | Lotus, Austin-Healey, Lister, Elva, Marcos | De Tomaso | BMC, Mini | Iso, Autobianchi | ||
1960's | AMG | René Bonnet, Matra | Lamborghini | Audi | ||||
1970's | Ruf |
Renault Sport, Ligier |
Caterham | |||||
1980's | Alpina | Venturi | Bugatti, Cizeta | |||||
1990's | Bugatti | McLaren, Ascari, Noble | Pagani | |||||
2000's | Mini |
表にまとめた実車ブランドは、自動車産業としての歴史が深く、かつ車種のバリエーションが豊富なヨーロッパの主要4箇国に絞っています。
巨大に成長したブランドはほとんどが長い社歴を誇っており、市場の要請に応じて、小型車、乗用車、商用車、レースカーなど、ありとあらゆる車種を提供する傾向にあります。
一方、レース由来のスポーツ系ブランドは、ベンチャー精神旺盛な個性的車種展開のため、経営は常に不安定です。そこで、資金力のある巨大ブランドが、自社に無いブランド力を欲しがり、資本提携や買収劇が繰り返されます。親会社の名前や国、社名などが頻繁に変わる栄枯盛衰の業界です。
私のモデルカー収集テーマは2ドア・クーペです。大衆車ブランドは移動道具としての機能から4ドア・セダンが主製品です。そのため、収集に適すのは自ずとレース活動に軸足を置いたり、スポーツ志向の車種を得意としたりする実車ブランドになります。前者はフェラーリ、後者はロータスなどです。
そこで、2ドア・クーペを主軸にする実車ブランドに絞り、さらにどういう種別の車種を得意としているかを一覧表に整理しました。自動車の運動性能を向上させるには、車体の軽量化とパワーの増大という相反する2方向のアプローチがあります。その着眼点から、ブランドの個性を把握します。
なお、下表で太字表記のブランドについては、次項で代表的モデルカー例を写真で紹介してあります。
Lightweight Sports 軽量スポーツ |
Sports Coupe スポーツ・クーペ |
Supersports スーパースポーツ |
|
DE 独 | BMW | Mercedes, Porsche, Audi, BMW, Koenig | Mercedes, Porsche |
FR 仏 | Alpine | Alpine, Venturi, Renault Sport | Bugatti |
GB 英 | Lotus, Elva | Aston Martin, Lotus, TVR, McLaren, Ascari, Noble | Aston Martin, Bentley, Jaguar, McLaren, Ascari, Noble |
IT 伊 | Abarth, Alfa Romeo, OSCA | Ferrari, Lamborghini, De Tomaso, Maserati, Alfa Romeo |
Ferrari, Lamborghini, Bugatti, Pagani |
EU 欧 | Donkervoort | Spyker | Koenigsegg, Spyker, GTA |
US 米 | Corvette, Shelby, DMC | Vector, Saleen, SSC, Hennessey | |
JP 日 | Honda, Toyota, Mazda, Suzuki, Tommy kaira | Honda, Toyota, Nissan, Mazda, Lexus |
同じ2ドア・クーペというフォーマットでも、ライトウェイト・スポーツは小排気量のエンジンを小型軽量ボディに搭載し、最高速度は高くありませんが、軽快な運動性能を実現しています。
一方、スーパースポーツは、エンジンの重量増を犠牲にしてでも絶対的な出力増を図り、可能な限り車重を軽くして、最高速度も含め圧倒的な運動性能を発揮することができます。
あらゆる実車ブランドの2ドア・クーペを俯瞰的に鑑賞できる方法は、世界で唯一、『世界モデルカー博物館』のご訪問以外ありません。美しく創造された空間に、精巧モデルカーで3700台(2015年現在)を一堂に展示しています。これは、実車では到底成し得ることのできない芸当です。
わずかなサンプルですが、魅力的な2ドア・クーペを世に送り出している実車ブランド毎に、代表的モデルを数台ずつ例示します。ほとんどの作品が他の章で紹介済みですので、当第6章まで『モデルカー学』を修習された方なら、車名や解説が無くとも、ブランドの個性を十分読み取って頂けるはずです。
なお、当サイト内で写真掲載しているモデルカーの車種名は、A-Z 車種リストで一覧することができます。
6 作品紹介 ≫ 6-1 逸品解説 6-2 デザイナー 6-3 実車ブランド 6-4 未組立キット 6-5 製品化要望