2ドア・クーペは、通常4つ車輪の付いたシャーシ(車体)、動力源、キャビン(乗員室)、屋根の付いたボディ(外装)で構成されます。その制限の下で、工業製品としての機能美や車種の個性が追求されています。
第3章では、モデルカーの小さな車体に凝縮された美しさの秘密を紐解いていきます。
Artwork Dino 206S Coupe 1966
作品紹介 ディーノ 206S クーペ 1966年
Description
The marque was named after the nickname "Alfredino, Dino" of Enzo' son Alfredo Ferrari who conceived of a 65 degree V6 engine prior to
his death in 1956 at the age of 24. Dino's hand scripted autograph on the emblem is based on his signature. Dino's engine was first used for Formula 2 cars.
And Ferrari wished to race in the FIA's 2 litre Group 4 class of sports prototype V6 midship Dino 206S was developed in 1966. It had coupe
and spider bodies and only 18 examples were produced in total. Its beautiful body styling like downsized 330P was designed by Piero Drogo’s Carrozzeria Sports Cars. 206S is also called
206SP meaning sports prototype. Dino had replaced naming from the capacity of one of 12 cylinders to the engine capacity with the number of cylinders. The model car is a white metal factory built
by Le Phoenix of legendary Andre Marie Ruf.
作品解説
ブランド名は、エンツォの長男アルフレード・フェラーリの愛称 “アルフレディーノ, ディーノ”
に由来します。自動車工学を学んだ彼はバンク角65度のV6エンジンの開発に携わりますが、1956年に24歳の若さで病死します。ディーノという手書き文字のようなエンブレムは、彼のサインを基にしています。翌年規定変更されたF2から、ディーノ・エンジンが実戦投入されました。ディーノ206Sは、スポーツ・プロトタイプの2リッター・グループ4クラスに参戦するため、1966年に開発されたV6ミッドシップ車です。ボディにはクーペとスパイダーがあり、18台が生産され優秀な戦歴を残しています。コンパクトなのに抑揚のある柔らかい曲線で無駄なくまとめられたボディは、美しさに定評のあるV12・330Pと同じく、元F1ドライバーのピエロ・ドローゴ率いるカロッテェリア・スポーツ・カーズの作品です。206Sは "スポーツ・プロトタイプ"
の頭文字をとって、206SPとも呼ばれます。型式名は以前の12気筒1シリンダー容量表記から、「総排気量+シリンダー数」表記へと変更されました。モデルカーはアンドレ・マリー・ルフが携わったル・フェニックスのホワイトメタル製ファクトリービルト・モデルです。
個人の美的感性は異なるとしても、大多数の人が “美しい” であろうモノに惹かれる性質を持っているはずです。私の得手勝手な解釈では、美しさとは “強者”、つまり生存確率の高さを表しているからです。美しいモノを志向する特性は、DNAに刻まれた生存本能に違いありません。
また、私の得手勝手理論では、美しさとは脳にとっての快楽刺激であり、美しいモノを見た時は胸が高鳴るのではなく、脳波が激しく躍動するのです。その後、心拍数が上がって心がトキメキます。つまり、美的感性とは気持ちの問題以前に、まず脳内で起こっている物理的現象なのです。
そうは言っても、美しさは時代や地域、社会や個人によって異なってしまうから話がややこしくなります。客観的で普遍的な美の定義は教養の高い科学者先生に委ねるとして、『モデルカー学』では学院長である私が100%主観を全開にし、得手勝手に断定していきます。
〔学院長の補足メモ〕
2014年に当ウェブの前身となる英日対訳ウェブに制作着手した頃、既にほぼ全形式のクラシック・レーシング・フェラーリ(2ドア・クーペ)をモデルカーとして揃えていました。しかし、90年代はランボルギーニ等の片手間でフェラーリ作品を収集しており、どうしても現行ロードカーが中心となって、傑作デザインである330P3やディーノ206Sなど60年代のレーシングカーは眼中にありませんでした。過去の自動車、特にレーシングカーとなるとなかなか現行メディアでは取り上げらず、情報も断片的にしか入ってこなかったからです。
日本に帰国後の2000年代だったか、当時物ではないBBRの330P3系レジン製キットの存在を知り、キットならレーシングカーもロードカー風のプレーンボディに仕上げられると、クラシック・レーシング・フェラーリの収集に精力を注ぐようになりました。そうしている間に他のメーカーからも完成品(ファクトリービルト)が発売され始め、渡りに船と購入しました。しかし、レーシングカーってチームによってマイナーな改造や形状変更を行っているんですよね。そこで、豊富なバージョンを作品化しているイタリアのメーカーに直談判し、彼らのレース出走車輛作品(複数車種)をゼッケン無しのプレーンボディとしてワンオフ製作、しかも車体色は全てロッソコルサに統一というワガママな依頼を受けて頂きました。これは330P3系だけでなく250LM系も同じで、通常形と共にロングノーズ形やワイドフェンダー形をプレーンボディで揃えることができました。他にイギリスのメーカーにワンオフで特注したファクトリービルトの412Pなどもあります。
次は206Sの物語です。コンセプトカーのピニンファリーナ206Cは知っていましたが、V6レーシングカーの206Sはフェラーリ旗艦V12の330P3系と比べ情報がさらに乏しく、モデルカーとして関りを強めていったのは、お手軽価格のイタリア・バンのダイカスト製品を収集し始めてからです。プロモデラーの方みたいに、塗装を剥いで改造し、再塗装するなんて芸当は私に無理でしたが、バンの作品はデカールが普通のシールっぽく、素人の私にでも根気良く作業すれば剥ぐことができました。さらに、クーペとスパイダーの両方が同じボディ・パーツで構成されており、クーペのウィンドゥとルーフ部分をスパイダーに取り付けることもできました。私が理想とする軽量スポーツカーの代表的デザインとして、勝手にディーノ206スペシャル(クローズド・スパイダー)と命名しました。
当ページで紹介したル・フェニックス・ファクトリービルトの206Sクーペは、私が世界中の206S作品に送り続けた強烈な思念に引き寄せられてか、ある日突然インターネット・オークションのeBayに出現しました。こんな稀少作品に出合うことは二度と無いだろうと覚悟を決め、頑張って落札しました。AMRやル・フェニックスなどアンドレ・マリー・ルフ系の作品は、元値が高額な上にファクトリービルトは人気で、モデルカー史の生き証人のような練達のコレクター諸先輩方が手放すことは滅多にありません。大量に出品されるとしたら、破産間近で現金化が必要な時か、コレクター人生を永遠に閉じる時かくらいでしょう。
ファクトリービルトを入手できたからと言って、私の206Sプロジェクトは終了しません。ダイカスト・バン製の作品だとやはり気韻に満足できず、2つのプロジェクトを準備しています。まず、レジン製スパイダー・キットのクーペ化、そしてル・フェニックス製スパイダーキットのクーペ化です。前者のキットは昔から複数メーカーの作品を入手しており、後者は昨年(2019年)10月にスパイダーとクーペの両キットをeBayで落札したばかりです。フル開閉モデルに改造できるように、エンジン単体のキットも入手しました。フル開閉と言えば330P4や250LMのレジン製フル開閉キットも入手済みです。改造や組立はプロモデラーの手に委ねる訳ですが、その前に資金調達をせねばなりません。プロジェクトの実現はまだまだ先になりそうです。
2020年3月某日